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  • 執筆者の写真Rinki Ito

Global Value Chain (GVC) 関連の研究

更新日:2022年12月15日

国際経済について勉強していく中で、Global Value Chain (GVC) について聞いたことがあるでしょうか。私はこの分野に惹かれ、今もGVCを軸に研究を進めています。


もし聞いたことがない人も、これから研究テーマを探そうとしている人も、今回紹介する話で少しでも興味を持っていただければと思います。まだまだ新しい分野ではあるので、研究する人が増えて理論も実証も活発になってくれたら嬉しいです。

 

GVCとは何か


GVCについて、決まった定義があるわけではないのですが、名前からなんとなく想像はつくのではないでしょうか。直訳すれば世界規模の価値の繋がりみたいな感じだと思いますが、つまりは、一つの製品でも生産工程がバラバラになり、国もまたいで散在している状態ということです。GVCの研究はかなり幅広く、一つに紹介するのは難しいのですが、今回はマクロ側の視点として、付加価値貿易と貿易分解について紹介します。(後述しますが、より包括的には Global Value Chain Development Report (2017, 2019, 2021), World Development report (2020), Antras and Chor (2021) がお勧めです)


まずiPhoneを例にとると、iPhoneに使われる部品には様々な国が関わっており、製造は中国でされます。他にもボーイングの飛行機、ニューバランスのランニングシューズなど、いたるところにあります。下図はボーイングを例として、飛行機の部品に様々な国が関わっていることがわかります。


当たり前のように感じるかもしれませんが、今までの貿易統計からだとGVCを確認するのが困難でした。なぜなら従来の貿易統計はその国だけの統計であって、輸出財がどう使われているのか、輸入品がどう生産されているかなど知るよしもありませんでした(上のボーイングではわかってるじゃん、と思うかもしれませんが、確かに製品1つに絞ればわかるかもしれませんが、もっと幅広くみた場合では確認が無理です)。


近年では国際産業連関表の開発が進み、マクロレベルでのGVCの研究が拡大しました。多国籍企業と生産ネットワークの関係や、中間財の存在を考慮した伝統的貿易理論の拡張など、GVCが将来の国際経済学の発展に重要な要素だと考えられます。(一方で、税関データを使用した、GVCの一部(2国の企業間貿易等)を詳細に分析するミクロ側の研究もBernard et al. (2007) あたりから多くされ始めました。)


GVCについて興味がある人は、世銀やOECDなどがまとめているGlobal Value Chain Development Report (2017, 2019, 2021) を読んでみてください。また、World Development Report (2020)もお勧めです。

これらは政策寄りな内容で、量は多いものの読みやすいので、包括的にGVCを勉強する際に役立ちます。よりアカデミック寄りなもので言えばサーベイ論文でAntras and Chor (2021)がありますが、上2つに比べだいぶ難しくなります。とはいえサーベイ論文なので、GVCについて研究してみたいという方は読むべきで、そこから芋づる式で論文を読んでいけば良いと思います。

 

付加価値貿易とは?


GVCという言葉が流行るとともに、付加価値貿易という考えも広まりました。付加価値貿易や中間財貿易の研究はHummel et al. (2001)が原点になっており、生産プロセスには多くの国にまたがる垂直的な貿易連鎖が関与するようになってきていることを彼らは示しました。この研究をもとに、中間財の存在を定量化する試みが進んで行きました。


中間財貿易の研究の先駆けとして、Trefler and Zhu (2010) があります。彼らはレオンチェフ逆行列のアイデアを貿易に応用し、国際産業連関表(この論文ではGTAP)を用いて中間財の存在を定量化しました(この論文では、中間財の存在の考慮からのHeckscher-Ohlin-Vanek モデルの検証を目的としている)。


彼らの論文から一気に中間財貿易の実証研究が増え、その後貿易における”付加価値”に焦点が当てられました。この付加価値貿易の先駆けとなる実証研究は Johnson and Noguera (2012) とTimmer et al. (2013)だと思います。それぞれ付加価値貿易の計算に対して前者はValue Added eXport (VAX)、後者はGVC income という名で定義しました(詳しい内容は各論文をお読みください)。Johnson and Noguera (2012)は、付加価値で計算した場合、アメリカの中国に対する貿易赤字が30-40%減少し、他のアジア諸国で増加するとしました。それを表したのが以下の図です。ここから中間財の重要性がわかると思います。

Koopman et al. (2014)によって、より詳しく付加価値の流れを数学的に定義されました(2 countries 1 sector model から G countries N sectors)。彼らはGross exportsを以下のように分解できるとしました。ここからGross exportsだけで分析することがいかにバイアスを含むのかがわかります。

最後に、Johnson (2018)ではGVC における貿易構造の計測を、上記の研究や、それ以外の主要な研究をもとに包括的にまとめています。これだけを読んでも省略されている面が多く理解がしにくいので、付加価値貿易や中間財貿易について気になる方は、まず上で紹介したものを読んだ後にこの論文を読むと、理解がさらに深まるのではと思います。

 

中心性


GVCの研究が進み、より貿易全体の変化を捉えるために中心性というアイデアがCriscuolo and Timmis (2018)によって追加されました。元々中心性というのは社会学から始まっており、人の影響力を測る指標として使われていました。情報学でも広く使われており、グラフ理論が背景にあります。マクロ経済学でも近年取引のネットワーク構造に焦点が当てられ始め、Acemoglu et al. (2012) は複数と取引を持つような中心的な企業の存在によってショックの伝播が全体に行き渡ることを示しました。この後も日本の大地震という負の外部性ショックの影響を分析したものもいくつかあります(Boehm et al.,2019; Carvalho et al., 2021)。


Criscuolo and Timmis (2018)は国際産業連関表を用いて各国各産業の中心性を計算し、世界全体の変化を説明しています。

上図を見ると、1995年では世界(各地域)のハブはアメリカ・ドイツ・日本でありましたが、アジアのハブは日本から中国へと変化してきていることがわかります。また、産業別にみた場合、コンピュータ・エレクトロニクスのバリューチェーンがアジアの新興経済圏に向かって大きく変化していることを彼らは示しています。


中心性は貿易においてはまだかなり新しい指標であるので、どこまで信憑性があるものかの判断は難しいです。この中心性がより貿易理論で使われ、発展していけば、より貿易構造の理解につながると考えています。その一員に私はなりたい。。。

 

まとめ


今回はGVCとその関連研究について、大雑把ではありますが紹介していきました。今回挙げた論文はどれも高度な数学的知識は必要なく、読みやすい部類に入るので、中間財貿易などの実証研究に興味がある方はぜひ時間がある時に読んでみて欲しいです。理論的な側面からGVCを勉強していきたい人は、Pol Antras の論文を読んでみてください。

 

参考文献


  • Acemoglu, D., Carvalho, V. M., Ozdaglar, A., Tahbaz-Salehi, A. (2012). ”The network origins of aggregate fluctuations.” Econometrica, 80(5): 1977-2016.

  • Bernard, A. B., J. B. Jensen, S. J. Redding, and P. K. Schott (2007). "Firms in International Trade." Journal of Economic Perspectives, 21(3), 105–130."

  • Carvalho, V. M., Nirei, M., Saito, Y. U., Tahbaz-Salehi, A. (2021). "Supply chain disruptions: Evidence from the great east japan earthquake." The Quarterly Journal of Economics, 136(2): 1255–1321.

  • Christoph E. Boehm & Aaron Flaaen & Nitya Pandalai-Nayar (2019). "Input Linkages and the Transmission of Shocks: Firm-Level Evidence from the 2011 Tōhoku Earthquake."The Review of Economics and Statistics, 101(1): 60-75.

  • Criscuolo, C. and J. Timmis (2018). "GVCs and centrality: Mapping key hubs, spokes and the periphery." OECD Productivity Working Papers, No. 12.

  • Hummels D, Ishii J, Yi KM. (2001). "The nature and growth of vertical specialization in world trade." Journal of International Economics, 54: 75-96.

  • Johnson, Robert C. and Guillermo Noguera (2012). "Accounting for Intermediates: Production Sharing and Trade in Value Added." Journal of International Economics, 82: 224-236.

  • Johnson, Robert C. (2018). “Measuring global value chains.” Annual Review of Economics, 10(1): 207-236.

  • Koopman, R., Wang, Z., and Wei, SJ. (2014). "Tracing value-added and double counting in gross exports." American Economic Review, 104: 459-494.

  • Timmer, M. P., Los, B., Stehrer, R., and de Vries, G.J. (2013). "Fragmentation, incomes, and jobs: an analysis of European competitiveness." Economic Policy, 28(76): 613-661.

  • Trefler, D. and S. C. Zhu. (2010). "The structure of factor content predictions." Journal of International Economics, 82:

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